نخستین 198 خط.
〈「ただいま」と言いたかった〉
〈少しでも早く→
「ただいま」と伝えたかった〉
〈だから 僕は あの時 急いでいたんだ〉
〈だけど…〉
〈あの事故が 僕を…→
変えた〉
40代男性。 頭部を強打し出血。
意識 昏睡状態です。 バイタルは?
血圧60の30。 心拍138。
ゆっくり。 頭気をつけてね。 1 2 3!
ライン確保 急げ! はい!
心停止からは回復したものの→
依然 危険な状態です。
とにかく 意識を取り戻すまでは→
どのような事態になるか→
はっきり申し上げて わかりません。
うっ…。
家路さん! わかりますか?
先生 呼んできて。 はい。
家路さん わかりますか?
〈そして 3か月のリハビリのおかげで→
僕は社会復帰をした〉
家路さん! おっ 家路!
家路! 治ったのか!
おかえりなさい!
あの…。
僕は ここで働いてたんですか?
〈僕は 何も覚えていなかった〉
高次脳機能障害ですね。
脳っていうのは 人間の臓器の中でも→
いまだにブラックボックスでね。
どうやったら治るのか 正直 わかりません。
はあ…。 家路さんの場合は→
まだらに 記憶障害になっているようです。
特に 過去5~6年間の記憶が すっぽり抜け落ちてる。
5~6年間の記憶…。
ん? 何やってるの?
メモです。
気抜くと こう すぐに忘れてしまうので。
リハビリしてる時から ずっと こうやって→
書いてるみたいなんですけど。 あの… これです。
あの… ここ 消されてますよね?
ええ。 自分で消したのか それとも 誰かに消されたのか→
それすら 全く覚えてなくて。 うん…。
あっ あと…。
10本の鍵 なぜか持ってたんです。
家路さん。
聞きました。
残念ですね。
でも… また すぐ戻ってきてください。
あっ すいません。
今じゃないですよ。
あっ そうですか。 じゃあ 行きますね。
ちょっと急いでるんで。 すいません。
終わりましたね あの人も。
ああ。
〈僕は かつていた 第一線の 第一営業部からは程遠い→
第十三営業部という 窓際も窓際→
窓から落ちそうな部署に 異動になり…〉
家路! バリュエーションの試算のやり方も→
知らないの? おい…。
また ろくでもないのが うちにいらっしゃったね。 ええ?
かわいそうになあ 彼。
部長。 はい?
ああ… ごめんなさい。 はい。 ごめんね。
なんか すごいエリートだったんだって?
事故に遭っちゃったんだって。
ああ~ それで…。
ああ~ だから 違うって! もういいよ!
なんだよ お前ら。
働けよ! 本当に もう!
あっ 部長は大丈夫です。 すいません。
すいません。 ごめんなさいね。
まだいらっしゃったんですか?
ああ… 仕事が遅いからさ…。
大変ですね。
うん… 本当 忘れちゃうんだよね いろんな大事な事。
やっていけるのかな…。
大丈夫ですよ。
この部署は じじ捨て山みたいなとこですから。
家路さん程度のポンコツなら まだ使えます。
君って めちゃくちゃ毒舌なんだね。
でも…。
僕は一人じゃないから。 僕には家族がいる。
家族?
フフッ…。 そう それが僕の自慢。
〈そうなんだ〉
〈いろんな事があって いろんな事を忘れてるけども→
僕には家族がいる〉
〈愛すべき妻と子供がいる〉
〈それだけは はっきりしていた〉
〈そして それが 今の僕にとって 何より大切な事なんだ〉
えっ…。
おかえり。 今日 割と仕事 早く終わってさ。
あっ もう ご飯出来てるよ。
キャー!
ちょっと 何やってるの? 離してよ!
何してるの!? ああ…。
ブラジャーに アイロンは かけなくてよかったっけ…。
ごめん うっかり。
ただいま。
あっ 香。 今 ちょっと すばるに怒られちゃってさ。
あなた…。 覚えてないの?
そうなんだよ。
本当 ごめん。 うっかりしてた。 ちゃんと書くから。
えーっと… ブラジャーに アイロンはかけなくていい… と。
本当に覚えてないの? 何が?
だから うっかりだって。
…じゃなくて。
離婚したんだよ ママとは。
うっかりしすぎでしょ…。
あの事故の噂…。
本当に覚えてないんだ…。
あっ そうだ…。 うわあ ごめん。
やっちゃった。 俺 やっちゃった。 ああ やっちゃった…。
じゃあ…。
鍵… 返しておくから。
〈そうなんだ 僕には家族がいる〉
〈だけど 今のは 前の家族で→
僕は また別の結婚をして 新しい家があって…〉
〈だけど 記憶をなくして以降→
そこには一つ 問題があって…〉
ふーん。 次は なんの絵 描いてるの?
ねえ この赤いの何?
えっ? ロケットエンジン。
ロケットエンジンか。 だから ロケットから…。
ただいま。
おかえりなさい。
遅っ…。
帰り道 迷っちゃってさ… ハハ…。
良雄 はい。 お父さんに なんて言うの?
おかえりなさい。
〈今の家族は… 僕の妻と子供の顔は→
僕には→
仮面にしか見えなかったんだ〉
うーん… グッジョブ!
焼き鮭に大根おろしを添えて→
だし巻き卵に切り干し大根→
小松菜のごま和え 肉じゃが!
おはよう。 おは…。
おっは…? うん そう。 おっはー!
…って 古いね 俺も。
ママ~! これ 着れない!
そこじゃないでしょ。
お顔を出すのが こっちで… もうちょっと。
おててが こっち!
はい。 朝起きたら なんて言うの?
お父さん 待ってるよ。 すご~い顔して。
いや… 良雄 おっはー! って わかんないか。
まあ いいや。 食べよう。
食べよっか。 はい どうぞ。
ああ~ 張り切って作りすぎちゃった。
えっ…?
ねえ これ…。
良雄って 和食系 基本的に苦手なの。
特に朝は…。
パンだけでいいから 食べさせようって言ったばっかり。
うっかり うっかり。 良雄 ごめん。 今すぐ パン焼くから。
良雄 お父さん 大変な怪我しちゃったでしょ?
だから しょうがないの。 間違えちゃっただけ。
もう こんな事で 泣かない!
でもさ お父さん 間違えたから謝ったよ。
そういう時は どうするんだっけ?
ああ~ いけないんだ。
謝った人には 「いいよ」って 許してあげるんでしょ?
いや… いいよ 時間ないし。
駄目よ。 ちゃんと 「いいよ」言えなきゃ!
今度から ちゃんと言うの。
さあ 部屋戻って 上着よう。
どうかした? ん? ううん…。
あっ… これ もう下げようね。
目の前にあったら 嫌だもんね。
ん?
あれ? こっちかな?
あっ…。
良雄 なんか付いてるぞ。
んん~…。
ちょっと!
何やってるの? いや…。
さっきの事 根に持ってるの? いやいや 違うって!
何も つねらなくても… ねえ~? ごめんな 良雄。 ごめん。
おはよう。
あれ? 家って この近くだったっけ?
珍しいね こんな時間に。 前は 6時には出てたのに。
今 部署変わっちゃって 基本 9時~5時だから。
左遷?
はっきり言うなよ そのとおりだけど…。
じゃあ 部活終わったら まっすぐ帰ってね。
6時 門限だからね。
そっちも まっすぐ帰ってね。 間違って入ってこないで。
鍵 返しただろう。
ひょっとして お母さんと あんまり うまくいってないの?
…別に。
よかったら 相談乗るけど。 はあ?
何年も ほったらかしにしておいて よく言うよ。
ほったらかし…?
そうか…。
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