نخستین 200 خط.
「出羽荘内 清河八郎➡
右の者 有名の英士にて➡
文武兼備 尽忠報国の 志厚く候間➡
お触れ出し ご趣意もこれあり 私方へ引き取り置き➡
他日の御用に相立て申したく この段 伺い奉り候➡
文久3年1月8日➡
老中 板倉周防守勝静」
よいか 本来ならば目明かし嘉吉を 斬り捨てた罪は重く➡
召し捕りのうえ 厳しい詮議あるところを➡
老中 板倉様の申し立てにより 本日をもって その罪を許す➡
以後 心得よ! はあ
頂戴します
あの男 なんとか言ったの
清河八郎 信用できるか?
できませぬ できぬ?
しかし わしの名を使っても 助けねばならぬ
それほどの男か?
このたびの浪士組結成を 成し遂げるためには➡
ぜひとも その男を必要とします
いや その男でなければ 成就できませぬ
だが 松平殿 その男➡
尊皇攘夷の指導者と いうではないか
毒をもって 毒を制す
かみそりの刃は 使い手の技ひとつで➡
いかようにもなると 聞いております
技におぼれて 己の手を切るときもある
いずれにしても奇妙な話じゃ
それほどの男が 今日は勤王 明日は佐幕
奇妙じゃ 奇妙なり八郎じゃ
フフフフ…
坂本君
フフフフ… フフフフ…
ほう あんたか
破るなら なぜ自分のを破らん?
ハハハハ… あんたのように 大赦が出んのでね
残念だが 早いな 誰から聞いた?
もう みんな知ってるよ 中には あんたが➡
今度は どんな手品を使ったのか それを知りたがってるやつがいる
手品か… フフフフフ…
私も聞きたい
君は消えたほうがいい
そのうち 聞きに行くかもしれん
坂本君 たまには 風呂へ入ったほうがいい
臭う ん?
ハハハハハ
清河八郎?
まだ面識はありませんが 名前だけは聞いております
それが? どう聞いておる?
はあ 将軍家の御政道に とかくの批判を投げかけ➡
倒幕の野望を抱く 逆賊と聞いております
それから? はあ
武士ではなく 出羽荘内の 百姓の出身と聞いております
それから? はあ
己の身分も省みず かつては神田お玉ヶ池に➡
文武指南の道場を開いたとか それから?
北辰一刀流 大目録皆伝の腕とも 聞いておりますが
佐々木 君は今までに 人を何人斬った?
何人だ?
2人… 2人か
フフッ… いい時代だな
平和が260年も続くと 武芸者の剣もさびるか➡
ところで 3人目を 斬れと言われたら どうする?
相手は 北辰一刀流だ どうだ?
なにゆえに その男を?
近いうちに その男 君の前に現れる
はあ だが そのときは会うだけだ
斬る日が来れば 私が教える 来ぬかもしれぬ
君は それだけを 知っておればよい
はあ
芸人どもが 危ない綱渡りをするときには➡
あらかじめ 網を張っておくそうな
君はその網だ 幕府を支える 網になるかもしれぬ
頼むぞ はっ
次!
はっ! はっ!➡
はー!
次! だあー!
次! はー!➡
面! だー!
あー! だー! はー!
参った!
北辰一刀流か フフフ…
誰だ!
清河八郎
山岡鉄太郎君が来ているはずだ
清河が来たと伝えてくれ
どうされた? 山岡君は おらんのか
清河さん! よう 久しぶりだな
久しぶりだな 大赦のことは聞いたよ
おめでとう! いや ありがとう
君は相変わらず若いな いやいや 酒ばかり食らってて
たまにやると もうこのとおりだ ハハハ
ああ 君は 清河さんは初めてか?
はあ 紹介しよう
佐々木君は 風心流の達人で➡
小太刀を使わしたら ここの教授で右に出る者はいない
世が世なら 我々 旗本も 顔色なしというところだ
ハハハハハ ハハハハハ…
佐々木只三郎です よろしく
清河です
山岡君 話がある 外へ出よう
そうか じゃあ ちょっと待ってくれ
うん
うーん いい匂いだ
君は 居合いは何流を使う?
夢想心流
違うかな?
先ほど 竹刀を手にしたときに 形にはまっていた
ひとつ教えていただこうかな
江戸へ立ち帰ってから 無聊で体がなまっている
天下の講武所のいきのいい 太刀筋で 一汗流してみたい
お願いできるかな
こちらこそ ご教授願いたいと 思っておりました
しかし 私は古い流儀で 清河さんの北辰一刀流のように➡
いざ試合のときは 面 こてを付けない
いかがでしょう それはおもしろい それでいこう
古式にのっとり 勝負は1本!
やー! はっ!
やー! えい! たー!
参った…
それまで! 浅かった いま一度!
やあー!
ハァ…
愚か者めが
一介の素浪人に 弟子の居並ぶ面前で➡
しかも 二度まで 打ち据えられるとはな
講武所教授は 幕臣の剣客のうちでは➡
最高の栄誉職だと思っていた
それが… フンッ
これでは徳川幕府の屋台骨も 揺らぐわけだ
なぜ腹を切らなかった?
武士道は 早亡き者とみえる
お願いがございます
いま一度 私に機会を与えてください
お願いいたします!
あの男を斬るには 剣だけでは斬れん➡
幸い まだ時間がある➡
清河八郎という人間を 知ることだ➡
あれは奇妙な男だ➡
奇妙なり八郎か… フッ フフッ➡
奇妙といえば➡
あれも 誠に 奇妙な因縁だった➡
それとも あいつの計算だったのか
8年前だ 俺はそのころ 刀に凝っていた
おやじ!
おー これは松平様
できておるか? へい 仕上がっております➡
今 お持ちいたしますから➡
よいしょ…
こちらへどうぞ
ああ 松平様 あのー
ペルリーとかいうアメリカ人が➡
またまた軍艦を引き連れて 浦賀へ参っておると申しますが➡
本当でございますか? うん
どうなるんで ございましょうねえ➡
世間では 今にも戦が始まる って言う者がいるかと思えば➡
反対に その…
どうなさいました?
おやじ 見ろ これは七星剣だ
七星剣?
ほら➡
こうして刀身を透かすと➡
やいばの地肌に匂い立つ 湯走りが➡
星のように 点々と青くさえてる➡
それが7つある これは 剣相でいう瑞剣だ
はあ なるほど
おっしゃるとおりで ございますなあ
私はただ 初代兼光の 珍しい業物とだけ➡
お見受けしていたんで ございますがね
誰の物だ?
これほどの瑞剣を持つ御人ならば さぞ名のある方であろう
あー それが 一向に お見受けしない➡
お武家様でございましてな➡
この店先に ふらりとおいでになって➡
さび刀だが 研いでくれと
名は なんと言った? 確か➡
清河… 八郎様とか
清河八郎…
会いたい
おやじ 今度 その御人が お見えになったら➡
俺の屋敷へ来るように ぜひにと お勧めしてくれ
しかし そのお武家様は お見受けしたところ➡
浪人者らしゅうございましたが かまわん
見事だ 見事な瑞剣だ
いや 眼福でござった
どうだ 君は これを手放す気はないか
価は いくら高くてもよい
残念ながら 手放す気はありません
山岡 それは無理というものだ
これほどの瑞剣 手放されるわけがない
それじゃ これを どこで求められた
俺も その店へ行ってみたい
店で求めたのではありません ほう… じゃ どこで?
さる大名が カネに窮して 置いていった刀の中から➡
私が選んだ さび刀に過ぎません なにー!?
じゃあ 貴公はカネの力で 武士の魂を巻き上げたというのか
巻き上げたかどうか 父のしたことゆえ存じませぬ
しかし いかに カネに窮したとはいえ➡
腰の物を置いていくようでは もはや武士の魂とは言えますまい
清河とか申したな
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