لومړۍ 200 کرښې.
(足音)
(島村)<国境の長いトンネルを抜けると 雪国であった。➡
夜の底が白くなった>
<その土地を 私は3度訪れた。➡
1度目は 初夏 2度目は 冬の初め。➡
3度目は 秋から冬にかけての長逗留だった>
<私の記憶の中では いつ何時も…➡
そこは 雪国だった>
(ノック)
旦那様。 ん。
奥様がお呼びです。
何? 坊ちゃんたちを 叱ってほしいそうです。
何かしたのか?
古伊万里の深鉢にいたずらを。
割れた? はい。
いいよ。
自分たちで 遺産の取り分を 減らしただけのことだ。
(汽笛)
<窓ガラスが鏡となって➡
斜め向かいの女を写していた>
<女の連れは 明らかに病人だった。➡
2人の様子は 夫婦じみて見えたが…➡
女のしぐさは 娘のように幼い母ぶりだった>
(マッチをする音)
<娘の顔のただ中に ともし火がともった>
<娘と病人は 同じ駅で降りた>
おっ 葉子さんじゃないか。 (葉子)駅長さん。
帰ったのかい。 ええ ご機嫌よろしゅうございます。
弟が お世話様ですわ。 ああ いやいや。
<悲しいほど 美しい声であった>
いらっしゃいませ。 はい お荷物お持ちします。
こちらですね。
<雪国に来るのは 2度目だった>
汽車に何か 気になるものでも ありましたか?え?
あっ いや… 何度も振り返っていらしたから。
ああ… 病人がね。
同じ汽車に病人が乗ってたんだ 東京から ずっと。
ああ。 それは きっと お師匠さんの息子でしょう。
お師匠さん? ええ。
三味線と踊りの師匠です。
あっ そうだ。 師匠の弟子だった娘に 旦那 前にお会いになったでしょう。
ああ。 あの子は まだいるかい? へえ おります おります。
<病人は 私が会いに来た女の 師匠の息子だと分かった>
<指で覚えている女と 目に ともし火をつけていた女>
<2人の間に 何があるのか 何が起こるのか>
<なぜか それが 心のどこかで見えるような気がした>
<とうとう芸者に出たのだと分かった>
この指が 一番よく君を覚えていたよ。
(駒子)そう?
<その女に初めて会ったのは 半年余り前の初夏だった>
<確かに初夏だったのに➡
どういうわけか思い浮かぶのは 雪景色だ。➡
無為徒食の私は 自身に対する真面目さを取り戻すため➡
1人で旅をしていた>
何にもない所ですけどねえ➡
昔は 雪解けの頃 近くに縮の初市が立って➡
それは にぎやかだったそうですよ。
私も 夏には 麻の縮を重宝してるよ。
結構でございますね。 きっと明治の頃 ここいらの娘たちが➡
半年も丹精して 織り上げたものでしょう。
半年。
ここは 雪国ですからねえ。
雪籠もりの月日には ほかにすることもありません。
子供のうちに習うんです。
その出来栄えが 嫁選びの基準にもなったんだそうですよ。
失礼いたします。 ふ~ん。
大切に扱えば 50年より もっと前のものだって➡
色もあせないで着られますよ。
芸者呼んでくれ。
あいすみません。
あいにく大きな宴会があって 誰も空いていないんですよ。
一人ぐらい どうにかなるだろう。
道路普請の落成祝でしてね。
にぎやかなんです。
もしかしたら 師匠の家の娘なら 来てくれるかもしれませんねえ。
師匠の家の娘?
ええ。 近くに 三味線と踊りの師匠がいるんですよ。
中風を患って もう教えてはいませんけどね。
その弟子にあたる娘が 今 一緒に暮らしてるんです。
芸者なのかい?
いいえ。素人かい。 いいえ。
<それで やって来たのが…➡
駒子だった>
<駒子というのは 芸者になってからの芸名だから➡
この時は 別の名前だったはずだが➡
今となっては 覚えていない>
失礼いたします。
<駒子の印象は 不思議なくらい清潔であった>
雪国の生まれなの?
ええ。 でも この温泉場じゃありませんわ。 港の方ですの。
そう。
どちらから? 東京。
行ったことあるかい。
ええ。 へえ。
お酌に出ていたんです。
芸者になるつもりだったのか? ええ。
けど 半玉で受け出されました。
行く末は 日本踊りの師匠として➡
身を立てさせてもらおうと 思ってたんですよ。
それなのに たった1年半で…。
別れたの。
死に別れたんです。
17の時ですわ。 もう2年も前のことです。 そう。
踊りは お好き?
ああ。
学生の頃から 随分と研究をしたよ。
そのうち 批評文を書くようにもなった。
それじゃ 日本踊りの批評をするのが お仕事?
今は 西洋舞踊に くら替えしたよ。
あら。 外国へ見に行くんですの?
西洋舞踊を じかに見たことはない。
そこが いいんだ。
西洋の本や写真や ポスターやプログラム。
そういう… 印刷物を 苦労して手に入れて➡
それを頼りに 西洋舞踊について書くんだ。
これほど 安楽なことはない。 これほど 机上の空論はないよ。
天国の歌だ。
所詮は 勝手気ままな妄想さ。
西洋の言葉や写真から 僕自身の空想が 踊る幻影を鑑賞しているのさ。
見ぬ恋に 憧れるようなものかしら。
うまいことを言う。
<次の日も 駒子は 私の部屋に遊びに寄った。➡
それで つい 変な頼み事をしてしまった>
芸者を世話してくれないか。
世話するって?
分かってるじゃないか。
いやあねえ そんなこと頼まれるとは 夢にも思いませんでしたわ。
友達にしときたいから 君は口説かないんだよ。
あきれるわ。
若いのが いいね。
若い方が 何かにつけて間違いが少ないだろう。
うるさくしゃべらんのがいい。
ぼんやりしていて 汚れてないのが。
しゃべりたい時は 君としゃべるよ。
私は もう来ませんわ。 ばか言え。
あら。 来ないわよ。 何しに来るの?
君とは さっぱりつきあいたいんだ。
何。 したら おしまいさ。 味気ないよ。 長続きしないだろう。
そうね。 私も そういうのが大好き。
あっさりしたのが長続きするわ。 うん。
そう。 本当に みんな そうだわ。
旅のお客さんたちに いろんな話を聞いてみても➡
何となく好きで その時は 好きだとも言わなかった人の方が➡
いつまでも懐かしいのね。 忘れないのね。
向こうでも 思い出して 手紙をくれたりするのは➡
大抵 そういうんですわ。
<女中に呼ばれて 来たのは いかにも山里の芸者だった>
フフッ。
どうなすったの?
やめたよ やめた。
そう。
あの子に気の毒したよ。
そんなの お客さんの随意じゃないの。
いつ帰そうと。
ここ 何?
繭倉ですわ。 繭倉?
改築の前はね。 でも みんな 今でも そう呼ぶわ。
へえ。 いろんなことに使われるのよ。
芝居や映画がかかることもあるし 大きな宴会にも重宝するの。
それじゃ ゆうべの道路普請の落成祝も。 ええ。
あなたに呼ばれる前 ここで 踊りを踊ったの。
その時 扇子を置いてきてしまって 取りに寄ったんですわ。
そうか。
今夜は 映画があるそうよ。 誰の?
大河内傳次郎。
「丹下左膳」か。 一緒に見に来よう。
あら。 悪いけど 今夜は 仕事があるの。
「やいやい やいやい!」。
(拍手と歓声)
(拍手と歓声)
(足音)
⚟島村さん 島村さん!
<その夜のことだった>
はあ…。 どうしたんだ。
スキー場で なじみになった人たちに 呼ばれて 宿屋に寄ったの。
そしたら 芸者呼んでの大騒ぎになって。
だからって そんななるまで 飲むことないだろう。
ああ。 ああ 苦しい。
あの人たち 安瓶を買ってきたのよ。
それ知らないで…。
ばかだな。
戻らなくちゃ。 どうしたかと捜してるわ。
ああっ!
(荒い息遣い)
思うように力が入らない…。
何だ こんなもの! 畜生 畜生!
だるいよ こんなもの。
よせ。
<安瓶のせいで 苦しいのだと思っていた>
もう遅いよ 帰るなら送ってやる。
<酔いで 文字盤が読めないのだと 思っていた>
もう 1時になる。
さあ。
名前を書いたげる。 名前?
好きな人の名前を書くの。
<尾上菊五郎 阪東妻三郎>
<大河内傳次郎>
いけない。
いけないわ。
お友達でいようって あなたが おっしゃったんじゃないの。
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