The first 200 lines.
(貞子(さだこ))ここはなあ あんたの便所やないんやで
ほんまに もう…
(信雄(のぶお))ゴカイじいさん くそじいさん―
紙がないから 手で拭いて
もったいないから 食べちゃった―
僕かて 氷 頂戴
(晋平(しんぺい))あ… ああ…
こない暑い日に きんつばなんか いれへんわ
ああ 嫌やったら 食べんとき
(シオダ)わしの半分やるさかい さじ 持っといで
(信雄)うん
お父ちゃんが きんつば焼くのは趣味やねん
夏冬 関係あらへん
ほら
食べんかい
うーん
おっちゃんな 来月 トラック買うんや トラック
あの馬 信ちゃんにやろうか?
ほんまか?
うん
ほんまに 僕にくれるんか?
うん
(信雄)くれるんやて あの馬
ほうか ほら よかったの
この親子には 冗談は通じまへんねんで
こないだ逃げられたカラスかて 3匹目でっしゃろ?
あげくに馬やて
この人 ほんまに 飼うてもええぐらいに
考えてまんねんで
フフフフ…
(晋平)冗談通じひんのは お母ちゃんの方やで―
のう?
戦後10年もたつ大阪で まだ馬車では 稼ぎも知れとる
(晋平)ああー ―
トラック買うて あんた ほんまかいな?
中古やで 新車は よう買わん
今日は ちょっと重いねん
さよか 中古でも トラックはトラックや
ああ よう気張りなはったな
フン
働きもんは あの馬やで ハハハ…
はい
(貞子)へい
ええっと…
おおきに
ごっつぉはん
おっちゃん
おい!
はい!
それ! はい! はい!
ああっ!
はっ!
はっ! はっ! ああっ!
はっ! はっ!
はっ! はっ! ううっ―
はっ! あっ…―
はっ! うっ
はいや! はいや!
はいや! はい!―
はい!
はいや!
(クラクション)
(シオダ)ううっ
(ブレーキ音)
(シオダ)ああっ
(いななき)
(信雄)馬車屋のおっちゃん 死んでもうた
(晋平)えっ?
(信雄)ほんまやで 馬車の下敷きになってもうて
(男性)どないした!
(男性)事故や 事故や 大変だ
(男性)大丈夫か?
(男性)おっさん!
(男性)危ない 出さにゃいかん 出さにゃ おい
(男性)おい 大丈夫か?
(女性)大丈夫か?
おっさん! おっさん!
シオダはん!
こらいかん こらいかんがな
見たらあかん
(晋平)貞子! 救急車や!
うん
きゅ… 救急車
信雄! 帰っといで! 信雄…
(貞子) まだ小さい子がおんのに―
あの奥さん どないしはんのやろな?
この店の 最初のお客はんやったんよ
まだ信雄がお腹におって
安産のお守りくれはったんよ あのおっちゃん
(晋平)もう10年か―
まだ焼け跡やったんやな この辺も
ほんまに 人間っちゅうのんは―
いつどこで死ぬや分からへんな
(晋平)戦争で 一遍 死んでもうた体やさかい―
もう絶対死なへん言うとったのに
なあ…
あんなむごたらしい 死に方するぐらいやったら
戦争で死んどった方が
生きてるもんかて 諦めがつくっちゅうもんや―
今んなって 戦争で死んでた方が 楽やったとか思てる人は
ぎょうさんおるやろなあ
お父ちゃんかて そない思ってんの?
ようやっと10年たって
店かて あんじょういくようになったのに
(晋平) そやけど 体動かすことしか 手がのうても―
一つこと ずっと辛抱して やってきた あのおっさん―
ありゃあ 立派やで
もし 信雄が 生まれてへんかったら
わいは きんつば焼いてへんな
あんた…
後悔してんのん?
長いことな 人の死に目にばっかり会うてきた
そこへ ひょっこり 信雄が生まれてきよった
それも 40過ぎて 初めて わいの子がでけた
はぁ…
こんなことしか わいには なかった
舞鶴の人
今でも恨んでるやろね
家も 何もかんも捨ててもうて
大阪の焼け跡で うちと貧乏してくれはった
私は お父ちゃんに感謝してます
やっぱり 行ってくるわ
どこへ?
決まってるがな おっさんとこや
こんな時間に行かへんかって
いやあ どうしても 行きとうなったんや
今 うちに 金 何ぼほどある?
すまんけど あるだけ出してくれんか?
な? 頼むわ
(信雄)何してんねん?
(喜一(きいち))この鉄 高う売れるで
これは人のもんや とったらあかん
そんなこと 分かってるわい 売らへんわい
お化けや! お化けや! あいつや!―
お化けゴイや!
ほら あっこ 見てみい
ほら あっこに動いとるやろ? でっかいコイが
あっ
俺 3回目や あいつ見たの 俺の背くらいあるねんで―
な? でっかいやろ? お化けみたいやろ?
誰にも言うたら あかんで
あのコイ 見たこと 絶対に秘密やで
うん
(喜一)俺の家は あそこや
どこ?
(喜一) 舟があるやろ? あれや―
昨日 ここに引っ越してきたんや
(信雄) 舟が家て 舟に住んでるの?
(喜一)うん
(くしゃみ)
寒いか?
ううん
僕の家は そこのうどん屋や
へえ うどん屋か
さっさと食べて はよ 学校行かんかいな
(戸の開閉音)
こりゃ もう1日 休んだ方がええで
夏の風邪は無理したらあかん
お父ちゃんの二日酔いとは 違います
はよ 向こう行ってな 布団に潜り込んで寝とり な?
(貞子)何やの? 行儀悪い
(信雄)頭 痛いわ
あれ? けったいな舟が いてるわ
(信雄)昨日から いてる
(貞子) 何で お前 知ってんねんな?
(信雄)うーん ここからでも見えるわ
(晋平)宿舟やな あれ
不便やろねえ 舟の生活って
宿舟って 何?
うん? ああ
荷物 積んでな―
川を行ったり来たりする あの はしけやのうてな
水の上に浮かんで 住むだけの舟や
(貞子)はよ 学校行き
(晋平)あっ おいでやす
はい おまっとはんです
おいでやす 何にしまひょ?
へい
(男性)焼き魚定食
(貞子)焼き魚定食…
はい きんぴら定食ね
(晋平)えーと 75円や
遊びに来たんか?―
遊びに来たんやろ?
あんなあ また―
あのお化けゴイが いてへんかと思うて
しっ そんなごっつい声出すな
あれは2人だけの秘密やで
ごめん
フフフ
フフッ フッ
うちへ来るか?
はよ 来いや
痛っ
(喜一)大丈夫か?―
危ないから 気を付けや
(銀子(ぎんこ))誰?
(喜一) 向こう岸のうどん屋の子や
汚れてもうたね―
きっちゃん これ 洗うたり
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