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本日の巻狩りの一番手柄は 大猪を射とめられた一文字殿じゃ
ま 先ずは祝着
あの大猪め 突然わしの前に飛び出しおった
馬は跳ねるわ 射とめるどころか落馬仕った つかまつ
父上 あの大猪 この場で料理ましょうか
あれは古猪 肉はかたく臭いとても食えん
さながらこの秀虎よ
食えるかの?
煮ても焼いても食えぬわ
それ故 本日も狩りを共にし こうして誼を深めておる次第じゃ よしみ
左様 拙者も我が姫と 三郎直虎殿との縁組みをもって
一文字 綾部両家の絆を 一段と強めたいと考えておる
待たれい拙者もその所存だ
一文字殿 本日はよい機会じゃ ご返答願いたい
よめご 三郎殿の嫁御に拙者の姫を選ぶか それとも綾部殿の姫を選ぶか
困ったの 姫は二人殿は一人
この次郎めに嫁がおらねばの
狂阿彌
ヘッ
なんぞ肴を仕れ
ヘッ
兎じゃ
狂阿彌 その兎は一匹か?
は?
二匹であろう
父上に食われに あの二ツの山の向こうから飛んで来た
三郎 無礼な!
たわけた事を申すな
お疲れのご様子じゃの
我等もひきとって お目覚めを待とう
大切な客人を前に 父上とも思えぬ
狸寝入り
三郎の雑言 眠った振りでもせずば とりつくろえぬ
これまでにない事だな たかが巻狩り
国一つ獲っても疲れた様子を見せる 父上ではなかったが
藤巻殿 綾部殿の手前もある
狂阿彌 お起こし申せ!
気を使うなら父上の事だ
いつ いびき 何時もの大軒が今日は聞こえぬ
父上 如何なされました?
どこかお加減でも・・・
父上
夢か・・・
夢を見た
枯野の夢だ
その枯野 行けども行けども人一人おらぬ
叫べどもおらべども 誰も答えぬ
我が身一つ
この世に唯一人
ぞっとして・・・
笑止 太郎の声に我に返って よく見れば
眼の前に我が子がいる
太郎もおれば
次郎
三郎もいる
父上のそんな顔付きには 生まれてはじめてお目に掛かった
気味が悪い
三郎 □をつつしめ
我等を思う父上のお気持ち 有難いとは思わぬのか
し かしこ の 次郎にも父上の 今のお言葉は真実とは思われませぬ まこと
我等は父上のお指図を仰がねば 何一つ出来ぬ
これで頼られていると 申せましょうか
まあ
待て
それについては かねてより考えていた事がある
本日 只今 それを述べる
処もよし 折もよし
三郎との縁組みを望む 藤巻殿 綾部殿も見えておる
お二方を
ハッ
この一文字秀虎は
あの山の遙か彼方の 小城で生まれた
その頃この地方一円は 数々の大小名がせり合い
もみ合っていたが
この秀虎 十七歳の時 その小城に旗を揚げ
営々五十数年
遂にこの地方を制して
あの 城 に 一文字の馬印を押し立てた うまじるし
その後ここにおられる藤巻 綾部両氏とも幾度か激しく槍を交え
今やようやくそ のお二方とも こうして 誼 を通じて よしみ
兵馬を休める時が来た
しかしこの秀虎も 七十歳
こんにち 秀虎 今日をもって 嫡男 太郎に家督を譲る
大殿!
何事かと思えば あまりに唐突な・・・
大殿
いやいやこれは常日頃 考え続けてきた事だ
いずれこの秀虎は身を引き
この国を 若者共の力にゆだねる時が来るとな
よく聞け
今こそその時じゃ 重ねて一同に申し渡す
只今より太郎がこの一文字家の頭領 この国の土じゃ COSESSIUV あるじ
わしは一の城の本丸を太郎に譲り 二の丸へ移る
従う者は側近の三十名とし 大殿の名目 格式だけは留めおくが
国事 兵馬の大権は すべて太郎のものぞ
この旨一同 しかと心得よ
ハハッ
心得ました
しかし我等次郎 三郎にも 今後のお指図を賜りとう存じます
うむ
次郎 三郎には 二の城 三の城とその所領を与える
共にその城を堅め ーの城の太郎を助けよ
わしはある時は一の城 ある時は二の城 三の城の客となり
余生を楽しみたい
あわれ 老いたり
申し上げます
ん?
家督相続のご沙汰 この身の果報ではござりますが
いま一度お考え直し下さい
何故じゃ
私め嫡男ながら父上に代わって この国をとり仕切るなど
とてもの事でござります
父上に百歳のご長寿が与えられるなら 我が身が削られても構わぬと
日頃 八幡宮に 祈願致しておりましたものを・・・
兄上はうまい事を言われる
俺にはぬけぬけと そんな事は言えん
なにやらこそばゆい
このひねくれ者
今の太郎の言葉は ただのへつらいだと申すのか
父上 三郎にはお構いなさるな
この次郎にしても兄上と心は一つ 父上のお袖の下が恋しゅうござる
しかし今こそ 父上の余生を安んずるため
我等が世の矢面に 立つべき時かと存じます
うん よくぞ申した
えびら その箙をこれへ
ヘッ
これを折ってみよん
これが折れるか
では これを束ねて折ってみよ
一本の矢はたやすく折れる だが束ねた三本の矢は折れぬ
たとえ太郎一人ではしのぎきれぬ 大難が起ころうとも
兄弟三人力を合わせれば 一文字家もこの国も安泰じゃ
父上 三ツの矢を束ねても 折れぬとは言えませぬ
このひねくれ者 また たわけた振舞いを
たわけた振舞いは父上のなされ方じゃ 急にたわ言を言い出されて
たわ言じゃと?
左様 急に老いぼれたのか 狂われたのか
黙れ!
この父に向かって なんたる言い様じゃ
わしの言葉のどこが狂っておる どこが老いぼれのたわ言じゃ
では申し上げよう 先ず 今の世を何とご覧なさる?
義も情もかなぐり捨てねば 生きていけぬ世の中でござるぞ
その様な事は百も承知じゃ
でござりましょうな
父上はどれ程人の血を流されたか わからぬお人じゃ
情け容赦なく 生きて来られたお方じゃ
しかし父上 我等もその末世乱世の子でござるぞ
それを己の子だからと その情を頼りに
老後の安楽を夢みられる
この三郎 そんな父上が狂ったとしか思えん
老いぼれたとしか思えん
そうか... わかった
ほう その方 事と次第によっては
この秀虎を親とも思わず 裏切ると申すのか?
これはまた愚かな 裏切ると申して裏切る者はおりませぬ
では太郎 次郎が 裏切ると申すのか?
三郎は兄上が家督を継ぐのが 不満なのであろう
三郎 先程か らの言葉は そのための讒言か? ざんげん
弟だとて 事によってはただはすまんぞ
父上 三本の矢のいましめも 早々にこのざまじゃ
これではやがて兄弟三人 血で血を洗う争いになろう
おのれ なんたる事を 父の志も願いも踏みつけにする気か!
よかろう 今の世に親も子もないと申すなら
えにし 親子の縁を 望み通り切ってつかわす
殿!
今 より後は赤の他人じゃ 何処へなと消えて失せろ! どこ
何を仰せなさる!
言うな丹後
この三郎を誰よりも可愛がり あまやかしたのが誤りのもとじゃ
この高慢 この増長を育てたのは このわしじゃ
今更悔やんでも遅い
腐った肉は我が身のものだとて 切って捨てるまでじゃ
お待ちを 三郎君の申される事
ずけずけとして 無礼とも非道とも聞こえましょう
がそれは真正直なお人柄から出る 飾りのないお言葉
よ く耳 を傾ければ 真実をつ いて誤ってはおりませぬ まこと
黙れッ!
黙りませぬ!
さが 退れ!
退りませぬ!
おのれ
殿一!
狂われたか 大殿
ちょくげん 直言こそ我等側近の務めでござる
この丹後 太刀を振るわれたとて 一歩も引きませぬ
無礼な
ごじょう 軽率極まるこの場の御諚 直ちにお取り消しを
この 増長慢 三 もはや赦せぬ 郎同然 ゆる
共に失せろ!
父上!
困ったな
さてこれからどうなさる 三郎君
違う 困ったと申したのは親父の事だ
その行く末を思えば胸が痛む
丹後 貴様は馬鹿じゃ
ほお この丹後のどこが?
わしをかばって 共に追放された事だ
そば 父上の傍を離れたのは間違いだ
如何なる事があろうともな
まさかとは思うが 追手かも知れませぬ
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