The first 189 lines.
この度 北の館藤巻殿の謀反 寝耳に水のこととて
五の砦 四の砦はたちまち火をかけられ
ええい 三の砦は
三の砦は備えを整えるいとまもなく
二の砦は何とした
二の砦の三木義明殿は 崩れ去った三の砦の手勢を立て直し
ただ今 獅子奮迅の最中にございます
一の砦は
一の砦の鷲津武時殿は五の砦 四の砦に火の手が上がると同時に
どっと国境より押し寄せた乾殿の手勢 およそ四百を一手に
うむ 乾の謀事か
鷲津は… 鷲津の合戦の模様は何とじゃ
苦戦
この者に手当てを
討って出るか
それとも この城にこもるか
城にこもる他ありませぬな
勝ちに乗る敵を迎え撃つのは
味方の深手をまねくばかりかと 存じます
まず蜘蛛手の森に前衛を配し
敵をあの迷路に誘って寸断し
少しでも多く 痛手を与えた上 引き払って城にこもる
まずこの一手かと存じます
兵糧は
水粥をすすって まず三月
申し上げます
二の砦より使武者にございます
通せ
通せ
殿 御武運祝着に存じまする
何とじゃ
二の砦の合戦
三木殿の奮迅めざましく 敵もやや攻めあぐむ折も折
一の砦の鷲津殿が乾の寄手を 打ち破った勢い凄まじく
敵の横手より弓を射かけながら 手勢を乗り入れ…
鷲津が
はい
鷲津がのう
はい その鷲津殿の働きに 敵はもろくも崩れ去って
今や勝敗はところをかえたかと 見えまする
殿! ただ今 鷲津殿 三木殿と その手勢は
逃げ足立った敵を北の館に追い戻し 囲みを固めておりまする
殿! 殿! ただ今 北の館の藤巻殿
頭を丸めると称し 和を請うて参りました
ええい 和議は許さぬ
則保
はつ
直ちに手勢を率いて北の館に行き
藤巻を斬れ
また国境の備えを固め もし乾に兵を動かす兆しがなくば
うん 鷲津と三木を城へ帰せ 余がじきじきにねぎらおう
何という日だ
こんな奇妙な天気は ついぞ見たこともない
急ごう 殿のお喜びの様子を 一刻も早く見たい
おう いざ
や ここは…
ここは確か 先ほど駒をとめた道じゃな
うむ 見ろ 踏み荒らした蹄の跡がある
解せぬな
おぬし この森は確かに蜘蛛手の森と 思うか
間違いない
だとすると 城まで一息のはずだが
うむ
しかし われらはもう一刻も森の中を 走り続けておる
しかも とんと森から出られん
それでこそ名にし負う 蜘蛛手の森だ
蜘蛛の手のように八方に道が乱れて
寄手を惑わす我が蜘蛛巣城の 要害というものよ
笑止な 寄手は知らず
我ら城の手の者には 勝手知ったる森ではないか
聞いたか
物の怪じゃ 物の怪の仕業じゃ
よおし この上はこの槍にかけて 突き伏せて通ろう
うむ 八幡 この弓矢にかけて
わーっ
やーっ
や あれは何だ
おぬし あの小屋に見覚えがあるか
いや ついぞ見掛けたこともない
これも物の怪の仕業よ
しかし
馬を見ろ この怯えようは ただ事ではない
何者だ
いや 人間かそれとも化生の者か
えい 言わぬか
唄うことができるなら 物も言えよう
はい
鷲津武時様
一の砦の大将様
なに? わしを存じておるのか
はい
今宵から北の館のお殿様
なに 今宵から北の館の殿?
はい
やがては蜘蛛巣城の御城主様
ふん
ほざくな ざれ言も程々にせい
このようなめでたいお話に
なぜ そのようにお怒りなさるのじゃ
蜘蛛巣城の主は 我が殿をおいて他にはおらぬ
人間はおかしなものよのう
自分の心の底をのぞくのが怖いのじゃ
うう こやつ
待て待て
たとえこの者が化生の者であろうと おぬしの矢先を胸にうけて
ただ ざれ言をもてあそぶとも 思われぬ
いや わしから とくと問いだしてみよう
これ よく聞け
貴様には現在この眼が見るように 未来のことが見えるのか
はい
三木義明様
二の砦の大将様
今宵からは一の砦の大将様
なに? 今宵から一の砦の大将? ふむ
それから先の所領と位は?
あなたの御運は鷲津様より 小さくて大きい
なに? それはどういう意味だ
あなたのお子様は やがて蜘蛛巣城の御城主様
おっ
(馬のいななき)
(馬의いななき)
(馬のいななき)
(馬のいななき)
(馬のいななき)
おう 城が見える
やっと蜘蛛の手を逃れた
いざ一駆け
ああ いや待て
ひどく疲れた
常になく鎧が重い
うむ 無理もない
昨日の合戦から 馬を乗りつぶすこと三度だ
少し休むか
うむ
眠い
今 俺の望みといえば ただぐっすり眠ることだ
いやあ 俺はまた すでに夢の中に いるような気がする
あの化生の者に会ったのも 実は夢の中でのことかもしれぬ
夢は五欲のあらわれと言うからな
正直な話 打物とって城の主に なる夢を描かぬ者はあるまい
おぬしのせがれは あの城の主に なるということではないか
いや おぬしこそ 自身あの城の主になるということよ
しかし その前にまず 北の館の主になるはずだぞ
俺はまた一の砦の将になるはずだ
めでたいの
いや めでたい
しかし…
何だ 何を言おうとしたのだ
いや おぬしこそ
うむ…
しかし
もし今宵から… 俺が北の館の主
おぬしが一の砦の将になったなら
この度の合戦の武功一番 鷲津武時
今宵よりは北の館の主じゃ!
三木義明 その方の功も 武時には劣らぬ
今宵よりは一の砦の宰領じゃ!
あーあ
のどかじゃのう
うん 極楽じゃ
砦と館では こうも住み心地が 違うものか
上には上があるものよのう
身につながる我々も果報ながら さぞ殿や奥方もご満悦であろうな
(浅茅) お覚悟は定まりましたか
いや
俺は悪い夢を見ていた
俺は物の怪に惑わされておった だがもう迷うまい
蜘蛛巣城の主などと そのような大それた望みは
大それた望みなどと仰せられまするな
弓矢とる身に 誰一人 それを望まぬ者とてないはず
いや
俺は… このままでよい
この館の主で大殿に忠勤を励む
分相応の安らかさが好ましい
それは叶いますまい
なに
もし三木義明殿が
蜘蛛手の森の 物の怪の予言を 大殿に洩らされたら
その時は このままでは済みませぬ
大殿は自分の地位を脅かす者として
直ちに軍勢をもって この館を囲むに相違ございません
殿の行く道はただ二つ
じっとこのまま 大殿に斬られるのを待つか
大殿を殺して蜘蛛巣城の主になるか
主君を殺すのは大逆だぞ
その御主君も
先君を殺して今の位につかれた方では ございませぬか
いや
あれは 先君が大殿を疑って 殺そうとなされたからだ
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