The first 22 lines.
その夜の妻
この深夜 同じ都會の 片隅では――
"今夜さへ無事に越してくれば あとは安心なんですが..."
"あなたは一昨日の晩から一睡もなさらんのぢやありませんか"
"わたくしは まだく 大丈夫でございます"
"お父ちやんは? お父ちやんはまだ?"
"もうぢき帰つていらつしやるから おとなしくねんねしてみませうね"
"お父ちやんを呼んでよう! お父ちやんを呼んで来よう!"
"お父ちやんはみち子ちやんの病氣を癒すお金を拵へにいらつしつたんだから今度々々もうぢき帰つていらつしやるわ"
"お母ちやんの嘘つき! お父ちやんを呼んでよう!"
"須田病院ですね 橋瓜ですが 先生を 電話口まで..."
"今夜は家に帰れませんが 子供の様子はどんなでせうか?"
"今夜が一番危険なんですよ"
"どんな御用か知らんが今夜だけは是非お帰りにならなけりゃいけません"
"まさか あなたは...?"
"俺達の仲間はみんな貧乏人だ 何処へ行ったって貸してくれる奴はありやしねえ"
"と言って みち子を見殺しにすることは俺には出来ねえ"
"みち子さへ癒ったら俺は自首して出るつもりなんだ"
"僕は其筋の者だが主人は内かね?"
"今朝出たきりでまだ帰りません"
"では 歸るまで 待たせて 頂かうか"
"お氣の毒ですけれど 子供が大病で 今夜が一番 危険なのですから"
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