ആദ്യത്തെ 185 വരികൾ.
籠城ろうじょうして ひと月となるか
皆 丸七日 何も食べておりませぬ
これでは 討って出ることも叶かなわぬ
もはや これまでか…
ええい 憎きは安西景連あんざいかげつら!
三年前の大飢饉ききんの折には 五千俵もの支援をしたというに!
こちらが飢饉に見舞われると
大軍で攻め入るとは…
殿の恩を 仇あだで返すとは!
おお 八房やつふさ
変わらず元気だのう
ああ そうだ
お前
景連を 噛かみ殺してくれぬか?
もし お前が見事 景連の首を取ってまいったら
魚肉など いくらでも褒美は くれてやるぞ
それでは足りぬか…
ならば
伏姫ふせひめを お前の花嫁にしてやろう
およしなされませ
八房は ただの犬ではありませぬ
人の言葉を解しまする
ハハハハハッ
わしとしたことが とんだ戯ざれ言ごとを
最後まで姫に叱られるとは
不肖な父を許してくれ 伏姫
八房!
何の騒ぎだ
殿 ご覧ください
安西軍が 四散しておりまするぞ!
止めろ そっちだ そっちへ行った
何事じゃ!
景連…
討て! 今こそ討って出よ!
おう!
えいえい おー!
えいえい おー!
色をもって 安西景連を操り
己の快楽のために 民を虐しいたげたばかりか
周辺諸国まで害を及ぼした 大妖婦だいようふめ
ここで成敗してくれる!
恐れながら
楽しみを欲しいままにしたのは 私わたくしではありません
景連殿でございます
“女の苦楽は他人に因よる” と申します
景連殿に寵愛ちょうあいされたのが悪いと おっしゃられても
弱い女に 他に どんな道があるのでしょう
ましてや
私が お仕えした 先代の殿様を滅ぼしたのは
金碗八郎様 あなた様の お弟子たちです
それゆえ
私は景連殿に 拾われたのでございます
この女の言うことには 一理ある
縄を解いてやれ
はっ
お慈悲をいただき ありがとうございまする
いや 待て!
うぬが そんな 哀れな女でないことは
わしが この目で見て よう知っておる
父上の言うとおりじゃ
うぬが 景連と並ぶ 大悪党であることは
安西の領民ならば 皆が知っておること
殿 やはり なりませぬ
この女を成敗せねば
領民に対して 物の筋が立ちませぬ
領民とな…
ならば その首 はねよ
里見義実!
いったんは許すと言いながら
人の命を もてあそぶとは…
殺さば殺せ!
この玉梓の怨念で 里見家を呪い尽くしてくれるわ!
ええい!
義実!
一度 口にしたことの重みを 思い知らせてくれる!
孫子まごこの代まで
ことごとく 畜生道に落としめ
煩悩の犬と変えてやる!
うりゃあ!
アハハハハハ…
アハハハハハ…
姫 姫…
殿
何をいたす 八房
姫を放せ!
放さぬなら 畜生ながら成敗いたす
お待ちくださいませ
お待ちください 父上様
私わたくしには
八房の心が分かります
何?
八房は
父上との約束が果たされないので 怒っているのです
馬鹿ばかなことを申すな!
馬鹿なことでは ございませぬ
里見家の当主であられます 父上様が
いったん口に なされた お言葉は
あとで取り消すわけには まいりません
姫…
お前は何を考えておるのじゃ
私は
八房の花嫁に ならなければならないと
考えているのでございます
義実!
一度 口にしたことの重みを 思い知らせてくれる!
孫子の代まで ことごとく畜生道に落としめ
煩悩の犬と変えてやる!
この犬は魔性のものに 取とり憑つかれておるぞ
もし魔性のものに 取り憑かれているなら
私が救ってやりましょう
父上
私が 里見家から 魔性のものを遠ざけまする
伏姫 伏姫!
どうじゃ?
二ツ山の探索を 終えましたが
伏姫様らしき お姿は いずこにもあらず
ええい! その言葉 聞き飽きたわ!
以方便力故いほうべんりきこ
余国有衆生よこくうしゅうじょう
間違いないのじゃな?
大輔が しかと 見届けてまいりました
大輔 お手柄じゃ
さすが八郎の子じゃ
はっ もったいなき お言葉
撃て!
伏姫!
姫!
姫…
最期に
お伝えしたいことが ございます
口を開くでない
誰か 布を持てぃ!
はっ!
伏姫様…
お許しください
八房に取り憑いた怨霊は
私の祈りで 浄化いたしました
しかし
怨霊の力 強く…
いまだ
里見家への怨念は
すべて… 消し去ること…
叶いませず
おのれ 玉梓が怨霊め…
父上様 うん
これを…
今 この珠たまに祈りを込めました
この八つの珠を持つ者たちを
お探しください
私の代わりに
必ずや…
里見家の… お力になりましょう
姫…
姫!
これが
「八犬伝」の始まりだ
どうかね?
まだ発端だけだが…
絵になるかね?
いや~
何をしてる?
こんな コッチンコッチンの
石灰で固めたような頭から
よく そんな途方もない物語が 生み出されるもんだ
…で 面白いのか? 面白くないのか?
面白い
この前 おいらが挿絵さしえを描いた この「弓張月ゆみはりづき」も
相当 面白かったが
それ以上だ
では 「八犬伝」の挿絵 描いてくれるか?
ああ…
描かん
“描かん”?
あんたに文句を言われ言われ 挿絵を描くのは
もう懲こり懲ごりだ
描いてくれるなら もう文句は つけん
つける
あんたが
文句をつけんことは…
金輪際ない
お父様
堀内様の奥女中おくじょちゅうの方が
愛読者ゆえ 一度お目にかかりたいと お見えになりました
紹介状がなければ会わんと
いつも申しつけて おるではないか 鎮五郎
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