The first 200 lines.
(遠く電車の音) (アナウンスのチャイム音)
(アナウンス)まもなく 4番線に上り電車がまいります
(アナウンス)危(あぶ)ないですから 白線の内側にお下がりください
(明るい音楽)
(電車のドアが開く音)
(電車の発車ベル) (拓)あ…
(きらめくような音楽)
(おだやかな音楽)
(女性(じょせい)1)遅(おそ)いー! (女性(じょせい)2)ごめんね あやちゃん
(女性(じょせい)1)ねえ ちょっと コーヒー飲む?
(野球中継(ちゅうけい) バットの打球音)
(機内アナウンス) 大変お待たせいたしました
(機内アナウンス)ご搭乗(とうじょう)機 まもなく離陸(りりく)でございます
(拓(たく))ぼくと松野(まつの)が初めて 里伽子(りかこ)と会ったのは―
一昨年(おととし) 高校2年の時の―
やはり こんな真夏の日だった
(セミの声)
(拓(たく))その日 バイト先に 松野から電話があった
おら バイト さっさと洗(あら)えよ どんどん来るがぞ
はーい
(おかみさん)拓(たく) 電話ぞね
あ すみません
(拓(たく))もしもし? (松野)杜崎(もりさき)?
(拓(たく))ああ 松野か
(松野)今日 バイト早番やったろ すぐ学校に来いや
(松野)今 講習(こうしゅう) 終わったけんど おれ まだ学校におるき
わかった
すみません
やっぱり今日は急用ができて 午後は手伝えませんき
ちょっと 待ちや!
お先に失礼しまーす
これやき ガキは当てにならん
(さわやかな音楽)
(拓(たく))お先ー!
松野
えらい早かったやいか
(拓(たく))なんぜ 人を呼(よ)び出いて
ちょっと来てみいや
誰(だれ)や あれ よう見えんちや
(松野)今度 おれのクラスに 編入(へんにゅう)してくる女子やと
武藤(むとう) 里伽子(りかこ)っていうがよ
(拓(たく))今度って二学期から? (松野)ああ
珍(めずら)しいな 高2で編入(へんにゅう)ちゅうのは あんまり聞かんけんど
けど入ってくるがいき それも東京の娘(こ)やぞ
さっき担任(たんにん)の小杉(こすぎ)に頼(たの)まれて おれが校内を案内してきた
(拓(たく))ああ 松野 クラス委員やもんな
お前 何や興奮(こうふん)しちょらんか?
興奮(こうふん)するよ そりゃ
武藤(むとう)は すげえ美人やきに
(拓(たく))へえー
(拓(たく))見えんやんか
(拓(たく))職員(しょくいん)室に乗り込(こ)んでいく わけにもいかんろが
(松野)その気あんなら 質問(しつもん)がありますとか何とか言うて
職員(しょくいん)室 行ってもええで お前 ついてくるか?
えいえい そこまでせいでも 職員(しょくいん)室には行きとうない
おれが夏休みの講習(こうしゅう) ひとつも取らんとバイトしゅうが
先生ら みんな知っちゅうしの
お前 中学の修学(しゅうがく)旅行のこと まだ こだわっちゅうがか
こだわっちゃあせん
けんど 中3の時は いきなり 中止にしちょいて
高校の修学(しゅうがく)旅行で どや ハワイや!
これやったら文句(もんく)ないやろっちゅう やり方が気にくわん
(松野)ハワイに行くがは みんな喜んじゅうし
学校はうまい具合に 生徒を操(あやつ)っちゅうで
(松野) ハワイでリフレッシュして―
高3の1年間は 受験に集中せえよ言うて
(拓( た-く)) ハワイに行くがは金がかかるき しっかりバイトせんとな
(松野) つまらんところで意地はって この講習( こうしゅう)で差ついたらアホらしいぞ
ちゃんと勉強しちょけよ
(拓(たく))ああ
ところで 今日はどうしたが なんぞ相談ごとでもあるがか?
いや ちょっとお前に 話しとうなってな
自転車とってくるき 門のとこで待っちょって
(松野)ああ
(拓(たく))中等部 高等部の 6年間を通じて―
松野とぼくは一度も 同じクラスにならなかった
それにもかかわらず ぼくは松野を親友だと感じていた
事の起こりは中等部3年の時に―
京都行き3泊(ぱく)4日の修学(しゅうがく)旅行が 突然(とつぜん)中止になったことだ
(校内放送 校長の声)突然(とつぜん)ですが 今年の中等部3年の修学(しゅうがく)旅行は―
中止になりました
なお今後は 中等部 高等部を通して―
修学(しゅうがく)旅行を一本化しよう 思うちょります
(生徒たちの不満の声)
(校内放送 校長の声) 去年の進学率(りつ)で―
我(わ)が校は とうとう県立第一に 抜(ぬ)かれてしもうた
父兄(ふけい)のみなさんや 立派(りっぱ)な伝統(でんとう)を支(ささ)えてきて下さった―
先輩(せんぱい)たちに合わせる顔がない
名誉挽回(めいよばんかい)のためにも―
今期は是非(ぜひ) 高等部3年の みなさんに がんばってもらいたい
でなければ今の中等部3年の犠牲(ぎせい)が ムダになってしまいます
(生徒たち口々に不満)
おい! あとで狭山(さやま)のとこ行かないか?
(男子生徒)おい 拓(たく)! (拓(たく))ん? ああ…
(拓(たく))あまりのバカバカしさに―
クラスの有志(ゆうし)で担任(たんにん)に 抗議(こうぎ)することにした
(野球部員の練習の声)
(拓(たく))えっと… なんか納得(なっとく)できんのです
修学(しゅうがく)旅行をやめたくらいで みんなの成績(せいせき)が上がるとも思えんし
ちゃんと説明がなかったき みんな不満に思いゆうと思います
(ドンという音)
(川村)そんなセリフは全国模試(もし)で 100番以内に入ってから言え!
ぼくは この前89番でした
(先生たちの笑い声) (川村)う…
おんしゃらあ
(川村)狭山(さやま)先生が女だと思うて バカにしゆうがやないがか!
(拓(たく))抗議(こうぎ)のことは それっきり 立ち消えになると思っていた
ところが それから1週間後の 朝礼の時…
(マイクをたたく音)
(川村)えー 中等部の 修学(しゅうがく)旅行中止の決定は―
父兄(ふけい)会でも承認(しょうにん)をもろうてある
一部の生徒が騒(さわ)いじょる ようじゃけんど
学校としても きちんと 説明したい思うちょる
不満のある生徒を確認(かくにん)したいき 今ここで挙手をするように
(生徒たちのざわめき)
(男子生徒1)いくらなんでも やりすぎじゃないか?
(男子生徒2) おい 手を挙げちゅうが
(男子生徒1)おお 挙げちゅうで
(女子生徒) ねえねえ 勇気あるがやね
(拓(たく))それが松野 豊(ゆたか)だった
(川村)よろしい
手を挙げた生徒には きちんと説明会をするき
放課後 美術(びじゅつ)室に集まること
以上
(生徒たちのヒソヒソ声)
(ドアが開く音)
(野球部の練習の声) (ドアが閉(し)まる音)
(野球部員の声とセミの声)
(野球部員の声とセミの声)
(ドアが開く音)
(静かな音楽)
さっき階段(かいだん)のとこで 山尾(やまお)らぁに会(お)うたぞ
杜崎(もりさき)に すまんて 言うちょってくれやと
(松野)許(ゆる)しちゃれよな
バカやにゃ…
(拓(たく))すごいなあ…
松野は10年後 20年後のことを 考えちょるがか
(拓(たく))それ以来 ぼくの中で 松野がいる場所は―
いつも 他の連中とは ちょっと違(ちが)っていた
(鳥のさえずり)
(松野)こいつ4組の杜崎(もりさき) 拓(たく)
こちら 今度うちのクラスに 編入(へんにゅう)する 武藤(むとう) 里伽子(りかこ)さん
じゃあ 私(わたし)これで
(里伽子(りかこ))二学期から よろしく
(拓(たく))お前 はやナンパかや
えっ… 違(ちが)う違(ちが)う
(松野)金誠(きんせい)堂は どこかって 聞かれたがよ
教科書が来ちゅうはずやき 取りに行くがやと
(拓(たく))ふーん
ほんで そのバイト先の 板さんちゅうが―
バリバリの族あがりらしいんじゃ
時々 昔のクセが出よって
タバコ吸(す)う時なんぞ つい しゃがみこんだり
(松野)ふーん…
どうしたが?
なあ こんな時期に 転校してくるらち―
なんか事情(じじょう)があったがやろうか?
(拓(たく))え…? (おだやかな音楽)
(拓(たく))そうか そういうことだったのか
ぼくは 松野がぼくを呼(よ)び出した 本当の理由に気づいた
そうやねえ 親父さんの転勤(てんきん)とか そういうがじゃないろうか
(キックの音)
(松野)じゃあな
(拓(たく))松野が里伽子(りかこ)に 魅(ひ)かれているのを知って―
ぼくは理不尽(りふじん)に腹立(はらだ)たしかった
やめちょきや
女は どうせ男の表面しか見んがよ
女なんぞに お前の良さは わかりゃせんと
(男子生徒)行くぞー! (生徒たちのかけ声)
(生徒たちの練習中の声)
(拓(たく))新学期が始まって―
里伽子(りかこ)は ぼくら純朴(じゅんぼく)な 地方のガキたちの間に―
ちょっとした旋風(せんぷう)を巻(ま)き起こした
おい 杜崎(もりさき) 女子の方 見てみ ええぞ!
ん? 有賀(ありが)やろ
(女子生徒)きょうこー! (有賀)フンッ…
(女子生徒たち)がんばれー!
(拓(たく))すごいがは わかっちゅう
違(ちが)うちゃ 奥(おく)のコート!
(拓(たく))ん…?
(里伽子(りかこ))ハッ! (女子生徒)はい!
(里伽子(りかこ))はい
(息切れ)
(生徒たちの声援(せいえん))
(息切れ)
(生徒たちの声援(せいえん))
(女子生徒)ドンマイ ドンマイ
かっこえいちゃ…
テニス部の芹(せり)が子ども扱(あつか)いじゃ
(男子生徒1) カッコよかったにゃあ 武藤(むとう)
(男子生徒2) あれは相当の腕前(うでまえ)ぞ
(男子生徒3) 本格(ほんかく)的にやりよったがよ
(男子生徒4)やっぱり東京もんは 打ち方 違(ちが)うちゃ
(男子生徒2)派手(はで)やなあ
(男子生徒3) それに ええ脚(あし)しちょった
(男子生徒2)けんどあのタイプ 相当 気が強いで
あの武藤(むとう)っちゅうやつ 目立ちすぎじゃ
目立ちすぎっちゅうこたあないろう
おい 松野
(拓(たく))おっと…
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