The first 178 lines.
(犬のほえ声)
(ほえ声)
(ほえ声)
(小野成平(おののなりひら))ん~ これ もっと速く進めんのか?
まったく 一晩に2人の女と 約束などするものではないな
(衝撃音) (成平)おっ! どうした?
(牛の鳴き声)
(家来)あれは!
(家来)成平様 向こうから 妙な牛車(ぎっしゃ)が!
(牛の鳴き声) (家来)んっ!
妙な牛車とは?
ハッ… 引く牛がおらぬ
(家来)もしや あやしのもの お下がりください 成平さ…
(家来)もしや あやしのもの お下がりください 成平さ… (牛の鳴き声) (ぶつかる音)
(牛の鳴き声) (ぶつかる音)
うわっ! (牛の鳴き声) (ぶつかる音)
(家来たちの悲鳴)
(家来たちのうめき声)
(成平の荒い息)
あやしの牛車よ そなた どこへ行く?
(牛車の女)内裏(だいり)まで7日かけ
参上する途中でございます
どいていただけますか?
(家来)成平様! (刀を抜く音)
ここは早くお逃げください!
(おびえる声)
でぇーいっ!
(2人)あああ…
ひぃぃぃやああああ~!
(成平)ハァ…
あの牛車のせいだ…
頼む 博雅(ひろまさ)
あのあやしの牛車を退治してくれ
(源 (みなもとの)博雅)任せろ 成平
都や民を守るために 俺が何とかしよう
(陰陽師A) 牛の引かぬ牛車とは⸺
面妖(めんよう)でございますねぇ
(博雅)私一人では心もとない
陰陽師のどなたかに ご助力いただけませぬか?
おお!
(陰陽師) 我々は本来 星を観察し
暦や吉凶を見るのが 仕事でございますからなぁ
あやかし事は…
(陰陽師) そうだ 安倍晴明(あべのせいめい)が適任では?
蛇(じゃ)の道は蛇(へび)というでしょう?
そうなのか! そのお方はいずこに?
あやつのウワサを ご存じないので?
ウワサ?
安倍晴明は 狐(きつね)の子か
(足音)
どなたか!
どなたかおられぬか?
まるで荒れ野だな…
(晴明)芽吹いてから枯れるまで (博雅)ん?
(晴明)全てを合わせて花という
人が手を入れ 盛りの時だけ楽しもうなど
自然の道理に反しておりましょう?
あ… あっ
安倍晴明殿ですね? これは失礼を致しました
私は… ん?
(カエルの鳴き声)
晴明殿?
(晴明)フッフッ (博雅)あ… ん?
からかわれたのですか?
ん…
私は源 博雅と申します
今日は ぶしつけにも 頼みたいことがあり…
(ヘビの威嚇音) (博雅)ん… うわっ!
(水に落ちた音)
フッハッハッハ
くっ!
フッフフフフフ
(博雅) 今度こそ 本物の安倍晴明殿か?
分かりませぬか?
(博雅) 分からぬから聞いておる
失礼
ぬれネズミにするつもりまでは なかったのですが
上がりますか?
(博雅)いや 結構
このまま上がっては汚してしまう
フッ… 汚れるも汚れぬも 人が定めたこと
私には関係ございませぬ
んっ んん…
よく分からぬが… 家主がそう言うのであれば
ほう
蜜虫(みつむし) 蜜夜(みつよ)
あなや!
(博雅)4日前のことだ
俺と同じ武官の小野成平という男が 面妖な牛車を見たというのだ
牛がおらぬのに進むのだそうだ
真夜中 朱雀大路(すざくおおじ)と 八条(はちじょう)の辻(つじ)の辺りで⸺
現れたかと思ったら
七条(しちじょう)で こつ然と 消えてしまったらしい
成平は それから寝込んでおる
(晴明)なるほど
このままでは 他の者にも 災いが及ぶやもしれぬ
どうか 牛車退治に ご助力いただきたい
つまらぬことで来たものですね
“つまらぬ”とは何だ!
都に不吉なことが起き 苦しむ者がおるのですぞ!
では あの男に頼めばよろしい
ん? “あの男”?
帝(みかど)ですよ
んなっ! ぐっ…
お前 帝を“あの男”などと!
おや 立ち上がられたということは 帰られるのですね?
ん? 何だ これは
あなた様のぬれた服ですよ
(博雅)くっ… お前に頼んだことが間違いであった
鬼の姫ごとき 俺が1人で退治してみせる!
失礼する!
(遠ざかる足音)
鬼の… 姫
(貴族A)博雅殿が狐の子に 頼み事をなさったらしい
(貴族B)帝に続き 醍醐帝(だいごてい)の孫まで たぶらかされたか
嘆かわしいことよ
(晴明)フゥ~ (博雅)うわっ あなや!
ななな なっ… んん…
お前 なぜここに!
都を守ろうと思い直したのです
あっ 本当かっ?
そんなわけあるまい
くっ…
鬼の姫が見たいのだよ
ん…
鬼の姫は牛車に乗っていたのか?
(博雅)ああ
どこへ向かうのかと尋ねると “内裏へ向かう”と
内裏?
“7日かけて参上する途中だ”と 答えたらしい
帝に何か災いがあれば大変なことだ
(晴明)ここではない (博雅)ん? 何がだ?
鬼の姫が現れるのは
四条(しじょう)だ
(博雅)なぜ四条なのだ?
(晴明)鬼の姫は “7日かけて内裏に参る”と言った
牛車は4日前に八条で現れ 七条で消えた
つまり 一夜(ひとよ)の間に 大路の辻を1つ移動しているのだ
4日前に八条ということは…
(博雅) なるほど! 見直したぞ 晴明殿
どのように 鬼を退治するつもりなのだ?
退治などという簡単なものではない
鬼は心まで祓(はら)い清め 調伏(ちょうぶく)せねばならぬ
調伏?
全ては今宵 (こよい)鬼を見てからだ
成平はどうなるのだ?
(晴明) 単に瘴気(しょうき)に当てられているだけだ
数日寝込めば元気になる
そうであったか
(風の音)
(晴明)来た (博雅)ん…
そこに隠れているのは どなたですか?
見つかっ… ん?
俺たちの姿は あちらからは見えぬ
あれは俺たちのことではない
(成平) 都を脅かす妖物め! ふんっ!
狐の子などに頼らずとも
この成平 自らが 退治してくれようぞ!
成平?
余計なことをしよって 博雅め
狐の子なんぞに借りを作れるか
うわ… ハッ ヒッ!
(家来)おおっ! (家来)成平殿!
(成平の悲鳴) (骨がきしむ音)
(家来)ああっ (家来)うっ
うがあああ! ごごごっ…
(博雅)成平! (晴明)おい!
(犬のうなり声)
んっ… あっ
(うなり声)
(家来)うわあっ (犬のほえ声)
ぐっ… 成平ーっ!
なぜだ… 成平
なぜ俺たちに 任せておかなかったのだ
(雨の音)
今宵 人を集めて 朱雀門(すざくもん)であの牛車を迎え撃つ
そう帝がおっしゃった
貴族が死ねば さすがに見過ごせぬか
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