The first 187 lines.
計画は すでに出来上がっている
あとは ただ… 彼らが罠にかかるのを待つだけだ
1人ずつ ゆっくりと――
思い知らせてやる
死の苦しみ
悲しみ
痛み
恐怖
これは裁きだ
復讐という名の…
だが 分かっている
人は 神にはなれない
だからこそ 最後の審判は 人ならぬものに託そう
この海に…
これから始まる計画のすべてを…
もうすぐ 彼らはやってくる
何の疑いも――
恐れも抱かずに…
自分たちを捕らえ――
裁く――
十角形の罠の中へ…
推理小説とは あくまでも知的な遊びの1つなんだ
小説という形式を使った 読者 対 名探偵
あるいは 読者 対 作者の 刺激的な論理のゲーム
それ以上でも以下でもない
マンションでOLが殺されて――
靴底をすり減らした刑事が 苦心の末に愛人だった上司を捕まえる
やめてほしいね
汚職だの政界の内幕だの――
現代社会のひずみが生んだ悲劇なんてのも 願い下げだ
ミステリにふさわしいのは やっぱり“名探偵”“大邸宅”
“怪しげな住人たち” “血みどろの惨劇”“不可能犯罪”
“破天荒な大トリック”…
絵空事で大いに結構
要は その世界の中で楽しめればいいのさ
ただし知的にね
鼻につくな
エラリイさんよ
読者全員が お前のように――
知的に できて いらっしゃる――
わけじゃない
僕は利口とかバカの話を しているんじゃないよ カー
ミステリという遊びを いかに知的に楽しむか
その余裕が持てるかどうかが 重要ってことさ
そんなことも分からないヤツが この研究会にいるとは 実に嘆かわしいね
お前のような登場人物は――
物語の最初で殺されるパターンだってのは よく分かってるさ
その辺にしておけ
この先1週間は 嫌でも顔をつき合わせるんだ
どうせなら楽しくやろうや
エラリイさんの言うことには 無理がありますね
おい ルルウ
と言うと?
科学捜査技術が進歩した現代において――
警察が ただの まぬけな引き立て役になることは もはや あり得ません
これからの推理小説には――
エラリイさんの望むような 名探偵の活躍する余地は――
どんどん失われていきますよ
そのとおり
だから そのジレンマを解消する 最も手っ取り早い方法――
それが“嵐の山荘”だ
まさに 僕らが向かうあの島が そのものじゃないか
あれが角島?
ふ~ん 雰囲気出てるじゃない ねえ オルツィ
あんたたち さっきから変な名前ばかりだね~
ああ これはあだ名でして――
全員 有名な推理小説家の名前で 呼び合ってるんです
はあ? よう分からんけど
せいぜい気ぃつけなよ
あの島にゃあ 出るけんね
何がです?
幽霊たい
ほれ あの島の青屋敷で殺された 中村 何たらっちゅう男の…
ダメだよ 親父さん そんなことして脅かそうとしても
みんな 喜ぶだけだからね~
そりゃあ幽霊ぐらいいても おかしくないわよね
あんな事件があった場所ですからね
“角島 青屋敷 謎の四重殺人事件”か
バイトの夜勤明けかい 大変だねえ
いや~ これでも苦学生なんで
ウソつけ! どうせ麻雀だろ
負けて親の仕送り使い込んできたんだろ このドラ息子
何で分かるんですか
タバコ臭い 酒臭い しけた顔…
あんたみたいな落ちこぼれ 何百人と見てきたからね
大家さん辞めて 探偵になったらどうです?
探偵? あんなもん堅気のやるもんじゃない
ハハハ そうですよね
麻雀 負けたからって お家賃は待たないよ
参ったな~
ああ~ よいしょ
逆恨みなら勘弁してくれ
ああ~…
中村青司…?
あった
死者からの告発…
東さんのお宅でしょうか
あっ 俺 K大の江南と申しますが――
一くん いらっしゃいますでしょうか
一は外出しております
そうですか…
あっ あの… ちょっと急ぎの要件で――
一くん宛てに手紙が届いたかどうかを 教えていただけないでしょうか
はい 中村青司という方から
ああ それなら確かに届いておりますよ
そうですか
一くん 何時くらいに戻られますか
それが 大学のクラブの合宿で 1週間くらい戻らないと申しておりました
本当に一度も 来なくていいんか?
電話も切れとるだろうが
ご心配なく 僕たち こういうのには慣れてますんで
せっかくの無人島生活なのに ちょくちょく来られたらムードが台無しだもんね
フフッ ねっ
ああ… うん そうだね
おい 早く行こうぜ!
それじゃあ1週間後
来週の火曜日 朝10時に迎えに来るけん
おい 本当にこっちで 合ってんのか?
そのはずですけど…
もうちょっと マシな道ないわけ?
ありませんよ 無人島なんだから
けど 半年前まで いたんでしょ 青屋敷の住人が
殺された中村青司は 天才建築家と呼ばれていたそうだよ
その彼が自ら設計して住んでいた屋敷
それが青屋敷とは離れの…
この十角館だ
オホホホ…
話には聞いていたが 本当に こんな形してるんだな
ヴァン先輩?
ごめん 出迎えられなくて
どうした? 顔色良くないな
風邪をひいたみたいだ
こんな時に申し訳ない
それはこっちのセリフだ
そんな状態なのに 準備を任せてしまって悪かった
運び込みは ほとんど業者に頼んだし――
大したことないから すぐに良くなると思う
無理するなよ 1週間は島から出られないんだからな
医者の卵がいてくれて安心だ
本当に… 本当に大丈夫なんですか
ああ ありがとう オルツィ 心配してくれて
靴は そのままでいいのかい?
うん
荷物は ここでいいのかい?
各自好きに部屋を選んでくれ
まあ どの部屋を選んでも同じだけどな
十角形の建物に 十角形のホール
テーブルまで十角形だ
あなたのおじさんも よっぽどの物好きね こんな家を買っちゃうなんて
かなり格安で 半ば無理やり売りつけられたらしい
だろうね でなきゃこんなとこ 誰も欲しがらないよ
でも そのおかげで こうして合宿に来られたわけだ
ちゃんと おじさんに お礼を言っといてくれよ
ああ そうするよ
ヴァン 酒はないのか
この合宿では 酒は飲まない決まりだろ
ルルウ 部屋を間違えないように 名前を書いた紙を貼っておいて
えっ 自分でやってくださいよ~
紙とペン いっぱい持ってきてるんでしょ?
あっ あれは原稿を書くためにですね~
よろしくね~
女王様には逆らえないな
少し休んだら島を探検しよう
中村青司って人は 何でこんな館を作ったんだろ
焼けた青屋敷のほうは――
天井から家具から 何から何まで 青く塗られてたそうですよ
青屋敷か…
異常に こだわりが強い 芸術家気質の人だったんでしょうね
中村青司は
考えてみれば あの犯人は まだ捕まってないんだよな
まだ この島のどこかに隠れていたりして ハハッ…
冗談はやめて!
あっ…
すまない そんなに脅かすつもりじゃなかったんだけど…
なんか… ずっとあんな感じなんです
気にするな ああやって楽しんでるのさ
絶海の孤島で 何か起こるかもしれないという 空気を体感して――
自分の作品に生かす
それこそが この合宿の目的だからね~
ならいいけど
でも 仮に… 仮にだよ
青屋敷事件の犯人が まだこの島の どこかにいるなんてことがあったら…
最高じゃないか
ハア… 言うと思いました
ヴァンのおじさんが ここを買ったって 聞いた時は運命を感じたよ
神様が僕たちに言っているのさ
青屋敷の四重殺人の謎を 解き明かせって
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